鵞鳥夫人推理張(二)

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「……という事がありましたの、先生」
庭園で野点と洒落込みながら、私は毛氈に葉巻を燻らせた。
「仕方のない奴だ。天下の大作家との逢瀬に、新作を読まず出向くとは」
同じ苦いなら此方が良い。香りが混ざると野暮を言わぬ。彼女の特筆すべき美点である。
「探偵の正体見たり知恵袋。写六は勘と勢いが取柄で、常識と礼儀に疎いのですよ」
「長年のご友人に、辛辣過ぎですわ、和十村先生」
「あれは患者です。事件の度に泣き付かれるし、迷惑な事だ」
法医の知識で、医者が探偵に劣るものか。写六が現場を掻き回し、警察諸君に迷惑を掛けぬ様、私が目付を務めている。
「さて刻限だ。御婦人を残すのは忍びないが」
「何か御予定が?」
「天道橋の解体工事で、古い人骨が複数出たとか」
「レディバード(天道虫)と人柱伝説。見立て殺人かしら」
「骨子は後日。次回作も楽しみにしていますよ」
共犯者の顔で、私達は密かに、茶碗の縁を合わせた。
ミステリー・推理
公開:19/03/24 16:00
更新:19/03/24 15:54
マザーグース 『ロンドン橋落ちた』 和十村(わとむら)=ワトソン

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
前職は花屋。現在は葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書き(もどき)をしております。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.12執筆参加
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞。2022年6月アンソロジー出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞受賞

いつも本当にありがとうございます!

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