共同浴場

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傷也のそばにいると楽しい。
でも彼のことはあまり知らない。
私と傷也は山陰の温泉まちで、それぞれが違う温泉旅館で働いている。このまちの旅館はどれも兄弟みたいな繋がりがあって、そこで働く人たちは皆が親戚のように見えた。そんな小さなまちの、混浴の共同浴場で私たちは出会った。
東京からやってきた私と浪江町からきたという傷也は、地元のおばあちゃんばかりが集う湯船では浮いた存在だった。
最初は混浴に照れてひどく彼を意識したけれど、一度関係をもつと、そこはくつろげる場所に変わった。私たちはそんなくつろぎのために関係したのかもしれない。
「お湯に浸けるとその人がわかる」
そう傷也は言った。その人の出汁が心地よさを決めると。
「私って昆布なの?」
そう聞くと、傷也は笑って、
「そうだよ」
と言った。
3月。傷也は毎日のように浴場に来ては東の空を見ていた。
私は同じ湯にたゆたいながら、彼の思い出を思った。
公開:19/03/24 14:43

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