風になって

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 春の風が剃りたての脛を撫で、パッド入りのショートタイツが引き締まる。薄曇りの空に、アディダスのアイウエア(赤)の選択は間違っていなかったなと思う。METのヘルメットを被り、SIDIのシューズのマジックテープを軽く締め、LOOKのビンディングペダルに赤いクリートを嵌める小気味良い音に、これから走るH湖を想う。20年来の相棒は、クロモリオーダーフレームにSHIMANO105だ。尻にフィットするサドルは5年目を迎えてへたってきたが、替わりは見つからない。昨夜巻きなおしたドロップハンドルのバーテープにパールイズミのグラブを擦りつけ、テイクオフだ。
 まずは25Km/hで、二足歩行だった身体を自転車に馴染ませていく。下り坂の前の交差点で締めるべきを締めなおし、65Km/hでカーブを曲がると、眼下に周長85KmのH湖が煌く。
 これから三時間弱。俺は風となって、しばし、失業中であることを忘れるのだ。
青春
公開:19/03/24 13:51
更新:19/03/24 18:14
おじさん

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

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