伝線

仕事帰り、車窓に夕焼けの雪峰を望み、写真を撮りたくなった。鴇色の稜線へ硝子越しに手窓を作り、構図が決まった所で邪魔にぶつかる。
山腹を横断する電線。シートで身体を前後するも、線を避ければ景色もずれる。もう少し退けば。ブラインドを広げる要領で、指を線の間で動かす。
と、平行線が僅かに撓んだ！
そんな馬鹿な！？硝子に雨でも落ちたかと車を降りる。夕焼け空も、峰を区切る平行も、変わらずそこにある。
再び車に戻り、試す。やはり硝子に映る電線は広がる。面白くなり、今度は縮めてみる。くっと凹面鏡の様に歪む。もう少し、と力を入れた瞬間。
電線が接触して火花が飛び、辺りの灯りが消えた。
恐る恐る降りる。電線は戻ったが電気は戻らない。車を飛ばして逃げ帰り、玄関で発見した回覧。
『設備点検に伴う停電のお報せ』
脱力した直後、嫌な予感に襲われ部屋に飛び込む。
電源の落ちたノートがショート、データが全部飛んでいた。