ロンリー・エクスペリエンス(淋しさ体験)

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 僕は〝淋しい〟と思ったことがなかった。〝淋しさ〟を知らないから、正直〝淋しい〟という感情がよくわからなかったし、特別なことだとは思ってもみなかった。
 春。親元を離れ、大学生活が始まった。結果、僕はあっという間にやつれていった。
 両親は仲睦まじく兄弟は元気いっぱい。友達も多かった。これまで家族や友、僕をとりまく誰も欠けることはなく、それが当たり前だった。近しい人や物との〝別れ〟の経験が無いことが自慢でもあり欠点でもあったのだ。
〝淋しさ〟を初めて経験した僕は引き籠った。ある朝、足音がして部屋の扉が開いた。
「もう大丈夫。良い経験をしましたね」行政の人とやらは僕の手を取り、微笑んだ。
 現在の社会では、過去に多くの人を蝕んだ〝苦しみ〟等の〝ストレス〟は完全に排除されている。でも、ある意味〝悲しみ〟以上にダメージを受けるこの〝淋しさ〟だけは残した。人の心をより豊かにするために。
その他
公開:19/03/20 18:16
更新:19/03/20 20:31
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二森ちる( 瞑想と妄想の森で )

二森(ふたもり)ちると申します。
人生の節目に、二つ目の名前をつくりました。童話や小説などはこの名で執筆しています。
怪談やホラー系は「鬼頭(きとう)ちる」名義で活動しています。
どうぞよろしく。

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