中央フリーウェイ

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 息子の引越しを終えて、家に戻ったのは夜十時過ぎだった。炬燵で息子の様子を妻に伝えながら茶を飲んでいると、体の強張りが溶けていくようだった。

 FMラジオから流れるチャカチャカした曲を聞きながら、俺は俺自身の引越しのことを思い出していた。
「親父のときは、じいちゃんが手伝ったの?」
 息子は殆どスマホを見ていたが、少しは会話もした。
「いや。親父は工場を継がせたかったからな。…仲間達とトラックを借りたよ」
「でも、結局は継いだんだろ」
「まあな」
 そこで突然『中央フリーウェイ』が流れた。
「これ俺達の時もかかったよ。深夜のAMラジオで…」

 ベッドでウトウトしていると、妻が寝支度をしながら「懐かしい」と笑った。
「鼻歌。中央フリーウェイでしょ」
 俺は腕を伸ばした。妻は少し俺を見て、ベッドに入ると黙って腕の中に入ってきた。
「引っ越したのは俺達の方みたいだな」
「また、よろしくね」
青春
公開:19/03/20 14:23
更新:19/03/20 16:12
新生活

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

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