桜の伝言

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家の近くの桜並木が、満開を過ぎ、青空に花びらを散らしていた。丁度こんな頃だった。ばあちゃんを思い出す。

東京の企業に昨年就職した。田舎を出るとき、ばあちゃんがしきりに心配した。ばあちゃん子の初孫が居なくなるのだから仕方ない。
「大変なら直ぐに返っておいで」
「心配ないよ。直ぐ慣れるよ」
僕を見送って、いつまでも家の前で手を振っていたばあちゃん。僕ときたら、ばあちゃんとの別れより、新生活への期待に胸を膨らませていた。
入社式の帰り、満開を過ぎた、この桜並木を歩いていると、スマホが震えた。
ばあちゃんが亡くなったー。母の声も震えていた。

1年が経ち、ばあちゃんへの宣言通り、都会生活にも慣れ、元気でやっている。
心配ないよー。
心で呟く。
ばあちゃんも天国での新生活には慣れただろうか。僕の方が心配になる。
風がさっと桜の花びらを青空に散らした。
心配ないよー。
ばあちゃんの声が聞こえる。
ファンタジー
公開:19/03/19 23:00

十六夜博士

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よろしくお願いします。

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