種の鳥

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 喉が乾いてベッドを出ると、裏庭に無数の白い灯が見えた。朧月に照らされた白木蓮の蕾だった。
 翌朝、窓から眺めると、蕾は文鳥のように枝に並んでいた。それから毎朝、蕾を眺めるのが日課になった。
 蕾は次第に大きく膨らんで、先端も緩んで、卵のような形になった。やがて、外側の花弁が少し捲れると、羽を広げようとしている烏のようにも見えた。
 そんなある夜。私は、凄まじい風の音に起こされた。裏庭を見ると、ボテン、ボテン、という鈍い響きと共に枝から何かが落下し、樹が激しく揺れていた。
 いくつもの羽ばたきの音が遠ざかっていく。私は声もなく立ち尽くしていた。
 翌朝、裏庭に出ると、樹下には白木蓮の花弁が散乱していた。私は一枚の花弁を拾ってみた。ネバネバとした紫色の液体が指を汚した。
 私は、孵化したのだと思った。そうして、泥に潜って時を待つ白い鳥の姿を想像して、その鳥はこの樹の下にもいたのだと思った。
ファンタジー
公開:19/03/19 10:31
更新:19/03/19 10:32
宇祖田都子の話

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

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