花となる

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「来月辞めるね」と藤さんが告げた時、私はしょげた。
藤さんは、ふたつ上の先輩で、同じ地域限定社員。上も下も3年で入れ替わる職場で、共に勤続10年以上の同僚は、心の拠り所だったのだ。
最終日、藤さんは花をくれた。
薄紫の藤の花枝。
「桃ちゃんも、望む場所に咲けますように」と、抱きしめてくれた。

半月後の朝。会社の最寄り駅を乗り過ごした時、足裏が痛んだ。見ると、皮膚を突き破り、木の根が生えている。
困惑しながら電車を乗り換え、いつもの駅に着くと、痛みは去った。家でも一切痛まなかった。
その夜、夢の中で私は樹木だった。
根を張る場所は、見知らぬ海街の丘上。「望む場所」と藤さんの声がして、目が覚めた。

翌年早春、私は退職した。
引っ越しの朝、見つめた足の爪先から、私の身体ははふりと崩れ始める。嬉しいことに、桜に似た白桃色の花びらだった。
無数になった私は、海を目指し、南風の中へと舞い上がった。
その他
公開:19/03/20 09:58
更新:19/03/20 22:15

rantan

読んでくださる方の心の隅に
すこしでも灯れたら幸せです。
よろしくお願いいたします(*´ー`*)

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