故郷と違う街で

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故郷を離れ、言葉も風景も人々の姿も違う街に独り住み始めた。
見知らぬ建物の間を歩いていると、書店から紙の匂いがしてきた。故郷の書店のと同じだ。深々と何度も吸い込み店に入った。
ここの言葉で書かれた一冊の本を手に取ると、床がぐにゃりとした。
次の瞬間、店内を俯瞰していた。
少女が絵本を広げ、傍の大人に向かって目を輝かせた。高齢女性がこちらをーー書棚の上の壁を見つめ、「次はあなたなのね」と微笑んだ。
夥しい数の本が今は私の一部であり、よく知らぬ言葉で書かれているのに、見つめれば中身がわかる。

厳しい眼差しの青年が店内を何度も巡っていた。私が一冊の詩集を凝視すると、それは書棚を離れ彼の手元近くに素早く移動した。
不思議そうに詩集を手に取りやがて買った彼は、少しだけ表情を和らげて私から出ていったのだった。

今日も多くの人と本が私の中と外を行き交う。
物語の結末が最初からわかる以外は、悪くない。
その他
公開:19/03/20 07:06
更新:19/03/20 07:34

UKITABI

ショートショート初心者です。
作品をたくさん書けるようになりたいです。

「潮目が変わって」(プチコン 海:優秀作)
「七夕サプライズ」(七夕ショートショートコンテスト:入選)
「最高の福利厚生」(働きたい会社 ショートショートコンテスト:入選)
選出いただきました。

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