こんなところ嫌だ

もうこんなところ、嫌だ。

おれが生まれたのは田舎も田舎、ド田舎だった。
みんなが知り合いだから、住人同士の距離も異様に近い。
その日学校であったことを放課後には隣のじいちゃんが知っていたり、
近所のおばちゃんから小さいころの話を何度も聞かされたり。

このあいだ従兄弟が遊びに来たときなんて、
「ここに住んでるやつら、話すことからやることまでみんな同じだよな」
とバカにされ、思わず怒ってしまった。

こんな狭い村、おれは抜け出す。
抜けだして、全然知らない人たちと出会って、
バカにしてきた従兄弟を見返してやる。

おれは遠くの町に就職を決めた。

やっと春が来た。
これからこの新しい地で、おれの新しい生活が始まる。
「彼らが君の同期になる面々だ」

そう紹介されたのは、村で一緒に学校を卒業した同級生たちだった。

おれは、従兄弟にひとこと『怒って悪かった』と留守電を入れた。