雪模様

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南に面した格子窓を開けると、雪模様だった。
川端康成の『雪国』みたいな出だしだが、見えるものは仕方がない。
日光浴に出した鉢に、小さく覗いた雪模様。夏から秋は真白く染まるが、今は青い新葉がやっと。それでも例年より早い方で、去年はまだ、湿気った黒土に縮こまっていた。
指先でつつくと、語感に反して感触は温かい。じょうろで水をやりながら、何となく背伸びしたい様な、ほっこり和らぐ気持ち。
珈琲も良いが、今日は緑茶にしよう。大文字に寝そべる雪模様の花を思いながら、赤ん坊の手のひらに似た、産毛の生えた葉と並んで、雲と影の移動をぼんやり眺めて過ごす。

――くらいの暇があったらいいのにな。と。
幸せそうな鉢を後目に、手付かずの仕事の白紙に向かい、現実逃避を試みる、締切り間際であった。
その他
公開:19/03/20 01:00
雪模様:大文字草の別名

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
前職は花屋。現在は葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書き(もどき)をしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.12執筆参加
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞。2022年6月アンソロジー出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞受賞

いつも本当にありがとうございます!

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