花神の庭~終宴。咲くや此の花(六)-完
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桜が雪の様に舞う。僕の見た薄墨と違い、淡く上気する紅色に、そぞろ立つ心地がする。
流れる軌跡が糸を引く。掻き撫でる様に辿り、僕は誰かの家の軒先に立っていた。ささやかな庭に若葉が煌めき、細い桜に花が数輪。全く知らない様で、堪らなく懐かしい感覚に眩暈を覚える。
「おじちゃん、大丈夫?」
子供の声。
――百合?いや、似ているが違う。やはり五つか六つ、幼稚園か。未知の単語が浮かび。
走馬灯が脳裏を駆けた。
蘇生した僕は赤ん坊で、炎の街から命を拾い、成長し、家庭を持ち、老いて死んだ。一日で終わった、人間だった僕の続きを生きた。
今の僕は彼の孫。二回目の生を、花守りでいた時間――三十数年生きている。
「大丈夫だよ、お嬢ちゃん」
声も姿も違う。もし逢えても、百合は僕を判るまい。
「いわながいさな」
にこり。笑った顔と、音が示す意味。
視線を伸ばした先。
「百合」
探し求めた顔が、泣き笑いに歪んだ。
流れる軌跡が糸を引く。掻き撫でる様に辿り、僕は誰かの家の軒先に立っていた。ささやかな庭に若葉が煌めき、細い桜に花が数輪。全く知らない様で、堪らなく懐かしい感覚に眩暈を覚える。
「おじちゃん、大丈夫?」
子供の声。
――百合?いや、似ているが違う。やはり五つか六つ、幼稚園か。未知の単語が浮かび。
走馬灯が脳裏を駆けた。
蘇生した僕は赤ん坊で、炎の街から命を拾い、成長し、家庭を持ち、老いて死んだ。一日で終わった、人間だった僕の続きを生きた。
今の僕は彼の孫。二回目の生を、花守りでいた時間――三十数年生きている。
「大丈夫だよ、お嬢ちゃん」
声も姿も違う。もし逢えても、百合は僕を判るまい。
「いわながいさな」
にこり。笑った顔と、音が示す意味。
視線を伸ばした先。
「百合」
探し求めた顔が、泣き笑いに歪んだ。
ファンタジー
公開:19/03/18 09:00
更新:20/03/05 02:07
更新:20/03/05 02:07
桜:精神美・優美な女性
※フランス:私を忘れないで
これにて、完。
創樹(もとき)と申します。
葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書きもどきをしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.13執筆&編集
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。
【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞 2022年6月作品集出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞
第二回ひなた短編文学賞 双葉町長賞
いつも本当にありがとうございます!
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