花神の庭~終宴。咲くや此の花(五)

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「人に戻れるのですか?百合に、逢える……?」
闇に灯る蛍灯を見つめ、胸が高鳴る。反魂は禁忌。生死は神にも越えられぬと宣告されたばかりなのに。
「判りません」
磐長姫(いわながひめ)の返答はにべもなかった。
「これは、命が尽き掛け、黄泉へ下る途上の魂。其方(そなた)が身を投じれば、まだ地上へ戻る事は可能です」
人の魂に融合し、黄泉路を溯るという事は――
「僕は、全くの別人として蘇生すると?」
「黄泉は時の頸木を外れた場。いつの時代、国、どの様な姿かも知れぬ。逢いたい者に再び遇い、共に生きられる保証もない。今の記憶も、想いも、忘れるかも知れぬ。……それでも帰りますか?」
迷ったのは、片手の数にも満たなかった。
「帰ります。たとえ逢えなくても、百合の世界を感じて生きたい」
「お行きなさい、人の子よ」
僕の魂は星の粒になり、蛍灯に融けた。

身体中が焼ける様に熱い。
遠く、近く、泣き声が聞こえた。
ファンタジー
公開:19/03/18 09:00
更新:19/03/18 17:18

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書きもどきをしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.13執筆&編集
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞 2022年6月作品集出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞
第二回ひなた短編文学賞 双葉町長賞

いつも本当にありがとうございます!

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