花神の庭~終宴。咲くや此の花(四)
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「彼女と生きたいと、瓊瓊杵(ににぎ)の君も仰いました」
磐長姫(いわながひめ)の曇った微笑は、胸に封じた慕情を滲ませ、『独りは苦しい』と漏らした伊邪那美(いさなみ)を思った。
「己を曲げ、二人を娶る事は出来ぬ。短い生涯でも、愛する者と添い遂げたいと、頭を下げられた。……真正直な方でした」
姫を返せば、人の命を縮めると知りながら、瓊瓊杵は木花開耶姫(このはなさくやひめ)を選んだ。彼の苦悩が、立場は違えど、僕にも痛い程解る。
「妹が身罷り、あの方もお隠れになり、世は乱れ、争い、命は傷付き絶えてゆく。私は見るのが辛かった。この樹に宿り、黄泉の底で永遠に眠ろうと思いました。それがあの方の望まぬ道でも」
桜を見上げた瓊瓊杵。彼は、磐長姫の幸せも願っていただろう。
「されど、世は変わるかも知れぬ。破滅の他の道もあるかも知れぬ」
姫の手が光る。弱く明滅する蛍灯。
「人の子よ。どうしても戻りたいですか?」
磐長姫(いわながひめ)の曇った微笑は、胸に封じた慕情を滲ませ、『独りは苦しい』と漏らした伊邪那美(いさなみ)を思った。
「己を曲げ、二人を娶る事は出来ぬ。短い生涯でも、愛する者と添い遂げたいと、頭を下げられた。……真正直な方でした」
姫を返せば、人の命を縮めると知りながら、瓊瓊杵は木花開耶姫(このはなさくやひめ)を選んだ。彼の苦悩が、立場は違えど、僕にも痛い程解る。
「妹が身罷り、あの方もお隠れになり、世は乱れ、争い、命は傷付き絶えてゆく。私は見るのが辛かった。この樹に宿り、黄泉の底で永遠に眠ろうと思いました。それがあの方の望まぬ道でも」
桜を見上げた瓊瓊杵。彼は、磐長姫の幸せも願っていただろう。
「されど、世は変わるかも知れぬ。破滅の他の道もあるかも知れぬ」
姫の手が光る。弱く明滅する蛍灯。
「人の子よ。どうしても戻りたいですか?」
ファンタジー
公開:19/03/18 09:00
更新:19/03/18 17:17
更新:19/03/18 17:17
創樹(もとき)と申します。
葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書きもどきをしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.13執筆&編集
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。
【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞 2022年6月作品集出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞
第二回ひなた短編文学賞 双葉町長賞
いつも本当にありがとうございます!
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