花神の庭~終宴。咲くや此の花(二)
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「何を泣くのです、人の子よ」
苔むした大岩に腰掛ける女性。
泣いている事に僕は気付いた。気付けば止めどなく溢れた。
「……帰りたい」
「庭にですか?」
首を振る。帰りたい場所は一つだ。
「百合の傍へ。彼女と生きたい」
「生死の境は神にも越え得ぬ。禁を犯した報い、知らぬ其方(そなた)でもないはず」
宥める口調で諭されても、抑える事は出来なかった。
「どんな罰も受ける。永劫地獄に堕ちても構わない」
「愛する者を犠牲にしても?」
怯んだ。僕自身はいい、だが、累が百合に及ぶなら――。
「あの方も、似た事を仰いました」
何処か嬉しそうな苦笑の響き。僕の識る人を連想させる。
「瓊瓊杵尊(ににぎのみこと)ですか」
皇統の祖にして現人神(あらひとがみ)。国の礎を築いた男。
彼には妻があった。桜を象徴する、儚くも美しい妻。
「貴方は、木花開耶姫(このはなさくやひめ)ですか」
頭に被った衣が、さらりと滑った。
苔むした大岩に腰掛ける女性。
泣いている事に僕は気付いた。気付けば止めどなく溢れた。
「……帰りたい」
「庭にですか?」
首を振る。帰りたい場所は一つだ。
「百合の傍へ。彼女と生きたい」
「生死の境は神にも越え得ぬ。禁を犯した報い、知らぬ其方(そなた)でもないはず」
宥める口調で諭されても、抑える事は出来なかった。
「どんな罰も受ける。永劫地獄に堕ちても構わない」
「愛する者を犠牲にしても?」
怯んだ。僕自身はいい、だが、累が百合に及ぶなら――。
「あの方も、似た事を仰いました」
何処か嬉しそうな苦笑の響き。僕の識る人を連想させる。
「瓊瓊杵尊(ににぎのみこと)ですか」
皇統の祖にして現人神(あらひとがみ)。国の礎を築いた男。
彼には妻があった。桜を象徴する、儚くも美しい妻。
「貴方は、木花開耶姫(このはなさくやひめ)ですか」
頭に被った衣が、さらりと滑った。
ファンタジー
公開:19/03/18 02:00
創樹(もとき)と申します。
葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書きもどきをしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.13執筆&編集
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。
【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞 2022年6月作品集出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞
第二回ひなた短編文学賞 双葉町長賞
いつも本当にありがとうございます!
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