花神の庭~終宴。咲くや此の花(一)

0
6

僕は桜の中に居た。
見覚えある井戸が目に入る。咲かないはずの桜が咲き、僕は桜に誘われ、黄泉でなく、ここへ来てしまったのか。
造り主の伊邪那美(いさなみ)が消え、僕の身体も均衡を保てなくなった。百合と過ごせたのは、唇を湿した変若水(おちみず)の効果だろう。
辺りは暗く、僕は魂だけで浮いている。このまま消えるか、それとも今度は、僕が桜の花神(はなかみ)になるか。庭の行方も、花守りの役目も闇の彼方。
この結末も覚悟はした。伊邪那美を拒めば、いずれにせよ無事に済むまい。覚悟の上で、僕は『イサナ』である事を選んだ。

気掛かりなのは百合だ。彼女はきちんと身体に戻れたか。常世(とこよ)の庭に生身の人間が入れるわけもないと、これも最近悟った。招魂(たまよばい)の要領で、庭に通っていただろう百合は、今頃夢から目覚め、何を思うのか。

「何を泣くのです、人の子よ」
暗闇に問われ、僕は声の方へふらりと漂った。
ファンタジー
公開:19/03/18 01:00
更新:20/04/02 20:38

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
前職は花屋。現在は葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書き(もどき)をしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
https://amzn.to/32W8iRO

ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.12執筆参加
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞。2022年6月アンソロジー出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞受賞

いつも本当にありがとうございます!

コメントはありません

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容