花神の庭~墨染(すみぞめ)
2
6
熱に浮かされていた。
堰を切った衝動が、欲望が、情と本能が支配した。僕もわけが判らず、百合はもっと判らなかったろう。半ば無理矢理で、両方泣いていた。気遣う余裕も後先も見境もなく、攫われ、溺れ、翻弄され、落ちた。
陰陽の太極図。勾玉の緒。胎児と萱輪。僕の中に百合が、百合の中に僕がいて――結ばれるとは、魂の結合なのだと感じた。
短い微睡に、初めて夢を見た。
黄泉の芒(すすき)を零れた百合。僕の手で光が交錯し、昇る。
昇る途中、光が霞み絶える刹那、風が距離を稼いだ。百合は芒に届き、尾花が咲いた。
僕の行為は反魂ではなかった。百合は一度死んで転生した。僕は多分、不安定な魂の欠片を使い、彼女を押し上げた。気吹戸主(いぶきどぬし)が、そこに手を貸してくれた。
白い肌を染める、花びらの痕を辿る。
狂い咲きの桜が散る。薄墨が舞い込み、僕を透過して百合の髪に降った。
中身の消えた単が、百合の肩を覆った。
堰を切った衝動が、欲望が、情と本能が支配した。僕もわけが判らず、百合はもっと判らなかったろう。半ば無理矢理で、両方泣いていた。気遣う余裕も後先も見境もなく、攫われ、溺れ、翻弄され、落ちた。
陰陽の太極図。勾玉の緒。胎児と萱輪。僕の中に百合が、百合の中に僕がいて――結ばれるとは、魂の結合なのだと感じた。
短い微睡に、初めて夢を見た。
黄泉の芒(すすき)を零れた百合。僕の手で光が交錯し、昇る。
昇る途中、光が霞み絶える刹那、風が距離を稼いだ。百合は芒に届き、尾花が咲いた。
僕の行為は反魂ではなかった。百合は一度死んで転生した。僕は多分、不安定な魂の欠片を使い、彼女を押し上げた。気吹戸主(いぶきどぬし)が、そこに手を貸してくれた。
白い肌を染める、花びらの痕を辿る。
狂い咲きの桜が散る。薄墨が舞い込み、僕を透過して百合の髪に降った。
中身の消えた単が、百合の肩を覆った。
ファンタジー
公開:19/03/18 00:00
墨染の桜と上野岑雄の歌
深草の野辺の桜し心あらば
今年ばかりは墨染に咲け
~古今集より
創樹(もとき)と申します。
葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書きもどきをしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
https://amzn.to/32W8iRO
ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.13執筆&編集
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。
【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞 2022年6月作品集出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞
第二回ひなた短編文学賞 双葉町長賞
いつも本当にありがとうございます!
ログインするとコメントを投稿できます