花神の庭~寄生木(やどりぎ)上
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「参ったぞ、伊弉諾(いさなき)」
予想は付いたが、満月が照らす女は、誰より逢いたくて、誰より見たくない姿だった。
「約束が違う。もう百合を巻き込むな」
「口ではどうとも申せる。この器は、約定が果たされるまでの質草ぞ」
差し出された百合の掌に泉が湧いた。
「変若水(おちみず)じゃ。飲めば、汝(なれ)は神の血肉を持つ。此度こそ、吾と汝は、まことの夫婦に返る」
完全の不死。消えない身体。それはつまり、人にとっての完全な死だ。
「お前は飲んだのか」
「……独り生身であるのは、苦しい」
憐れで哀しい女神。そうまで、帰らぬ夫が愛しかったか。
変若水が唇を湿す。水を与える伊邪那美(いさなみ)の眼は、人間の僕を生んだ母の、一声きりの子守唄に似て優しかった。
「けふよりはじめて、つみといふつみはあらじと」
泉が水球を成して浮き、四散した。
「伊弉諾?」
「僕は花守り(はなもり)のイサナだ。伊弉諾じゃない」
予想は付いたが、満月が照らす女は、誰より逢いたくて、誰より見たくない姿だった。
「約束が違う。もう百合を巻き込むな」
「口ではどうとも申せる。この器は、約定が果たされるまでの質草ぞ」
差し出された百合の掌に泉が湧いた。
「変若水(おちみず)じゃ。飲めば、汝(なれ)は神の血肉を持つ。此度こそ、吾と汝は、まことの夫婦に返る」
完全の不死。消えない身体。それはつまり、人にとっての完全な死だ。
「お前は飲んだのか」
「……独り生身であるのは、苦しい」
憐れで哀しい女神。そうまで、帰らぬ夫が愛しかったか。
変若水が唇を湿す。水を与える伊邪那美(いさなみ)の眼は、人間の僕を生んだ母の、一声きりの子守唄に似て優しかった。
「けふよりはじめて、つみといふつみはあらじと」
泉が水球を成して浮き、四散した。
「伊弉諾?」
「僕は花守り(はなもり)のイサナだ。伊弉諾じゃない」
ファンタジー
公開:19/03/17 19:00
創樹(もとき)と申します。
葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書きもどきをしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.13執筆&編集
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。
【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞 2022年6月作品集出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞
第二回ひなた短編文学賞 双葉町長賞
いつも本当にありがとうございます!
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