ひらがな表

「愛はないわ」
お母さんから言われた一言。
もう10年も経つ。

「あんたのことが好きなんだって」親友から言われた。野球部の人が私を好き？人を好きになるってどういう事かあの日から分からなくなっている。親友には話した事がある。私が受けたあの日の事を。

数日後、下駄箱に手紙が入っていた。開けてみると、1枚の紙の右端上に“あ”と“い”だけが書いてあった。
翌日にも同様の手紙が入っていて、その次の日も...。
私は気持ち悪くなり、親友に話をした。まぁ単なるイタズラじゃないって、何か知っている感じだった。
その手紙は10日続いた。
11日目、下駄箱に行くと野球部のユニホームを着たクラスメイトが立っていた。
「あいだけの手紙読んでくれた？」と。
「あれ、ひらがな表なんだ。で、“あ”と“い”だけ書いた。10枚書いた。10年分のつもりで書いた。俺、あいだけしか書けない」気持ち悪って思ったのに涙が流れた。