アパートの花子さん

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格安アパートにおかっぱ着物の女の子が居た。
「わたし、トイレの花子さん。よろしく」
四月から憧れの一人暮らし、の筈だった。
「大丈夫。生前と違って今はルームシェア?も普通だし」
『生前』と書いて『むかし』と読むな。大体、ここは学校でもトイレでもない。
「わたし、常識に縛られるの嫌いだから」
地縛霊じゃん。めっちゃ縛られてんじゃん。
「気が晴れたら成仏できると思う」

奇妙なルームシェアが始まった。
花子さんと私はたくさんおしゃべりをした。流行りのスイーツ、きれいな服、好きな男の子の話まで。
「あー、すっごく楽しい。あなたは?」
突然聞かれて驚いた。「楽しい」なんて気持ち、生きてる時には感じたことなかったから。
その瞬間、気が晴れた私は春の空に舞い上がった。そっか。私は友達が欲しかったんだ。
「また来世ね」
『来世』と書いて『こんど』と読むな。
花子さんの声が桜の花びらみたいに風に舞った。
青春
公開:19/03/16 23:19

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