花神の庭~華燭の昊(かしょくのそら)中
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僕の手に、瓊瓊杵(ににぎ)は赤い玉を渡した。
南天の実。庭にも一本ある。あれも花神(はなかみ)が現れない木で、日頃存在を忘れがちだった。
「もちさすらひ、うしなひてむ」
瓊瓊杵が唱える。南天に星が走り、朱赤の瞳になった。
「生死の交わりに随い、根国底国(ねのくにそこのくに)へ流離(さすら)った、諸々の罪穢れを吸って育つ、謂わば世の形代よ。この庭にあるも含め、南天は総てその分岐。触れた者の業と運命を写し、蓄える」
怖い。この身体で死に、甦り、慣れたつもりの死が怖かった。己が傷付き死ぬ事は、今まで生理的苦痛でしかなかった。喪われる恐怖を、無念を僕に意識させたのは、気吹戸主(いぶきどぬし)であり、百合だった。
南天の瞳が閃光を放ち――
赤黒く燃える夜空。火の粉を撒く、炭と灰の街。巨大な蜻蛉の編隊。
「ね、んねん、ころーり、よ…おこーろり……」
僕を抱く、横たわった腕がぱたりと落ち、声が止んだ。
南天の実。庭にも一本ある。あれも花神(はなかみ)が現れない木で、日頃存在を忘れがちだった。
「もちさすらひ、うしなひてむ」
瓊瓊杵が唱える。南天に星が走り、朱赤の瞳になった。
「生死の交わりに随い、根国底国(ねのくにそこのくに)へ流離(さすら)った、諸々の罪穢れを吸って育つ、謂わば世の形代よ。この庭にあるも含め、南天は総てその分岐。触れた者の業と運命を写し、蓄える」
怖い。この身体で死に、甦り、慣れたつもりの死が怖かった。己が傷付き死ぬ事は、今まで生理的苦痛でしかなかった。喪われる恐怖を、無念を僕に意識させたのは、気吹戸主(いぶきどぬし)であり、百合だった。
南天の瞳が閃光を放ち――
赤黒く燃える夜空。火の粉を撒く、炭と灰の街。巨大な蜻蛉の編隊。
「ね、んねん、ころーり、よ…おこーろり……」
僕を抱く、横たわった腕がぱたりと落ち、声が止んだ。
ファンタジー
公開:19/03/17 15:00
創樹(もとき)と申します。
葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書きもどきをしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.13執筆&編集
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。
【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞 2022年6月作品集出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞
第二回ひなた短編文学賞 双葉町長賞
いつも本当にありがとうございます!
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