花神の庭~華燭の昊(かしょくのそら)上

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人間の僕を知って、事態が動くとも思えないが、向き合う事が必要だと思った。祝詞(のりと)は神の言葉でなく、人が願いを懸けた詞(ことば)。今夜が望月という瀬戸際に、僕は少し足掻く気になった。

『人も神も、等しく弱く愚かよ。過ち苦しみ、それでも求める』
天孫、瓊瓊杵(ににぎ)。伊弉諾(いさなき)と伊邪那美(いさなみ)の昔を僕に見せた。怒りと憎しみをぶつけた僕に、答えてくれるだろうか?

桜の根方の井戸へ桐の葉を投じる。霧が辺りを包み、角髪(みづら)を結った老人が、沈鬱な面持ちで僕に告げた。
「気吹戸主(いぶきどぬし)の事は、汝(なれ)のせいではない」
「僕が彼の名を触媒に、反魂の禁忌を犯した。それも僕のせいではないと?」
彼は見て来たはずだ。この庭を、幾代もの僕を。
咲かない桜。酒水が汲める井戸の、桐で組んだ井桁。
「汝が今知りたいのは、その事かね」
「人間の僕が死んだ日を」
長い息が漏れた。
ファンタジー
公開:19/03/17 15:00

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
前職は花屋。現在は葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書き(もどき)をしております。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.12執筆参加
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞。2022年6月アンソロジー出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞受賞

いつも本当にありがとうございます!

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