煙草女

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黄昏時、俺の後ろを尾けてくる女がいた。
長く伸ばした髪が両目に垂れ、顔は⋯⋯よく、分からない。
どうやら俺が投げ捨てた煙草を拾っているらしいのだが、ずっと尾け回され、いよいよ鬱陶しくなってきたので、追っ払ってやろうかと後ろを振り向いた。
「あっ!?」
俺が見ている事に気がつくと女はにっこりと微笑み、火の点いた煙草を口に放り込んで、にっちゃ、にっちゃと旨そうに食べ始めた。
俺は恐ろしくなり、自分の家に向かって駆け出した。

ようやく家が見え始めた。
後ろを振り返っても誰の姿も見えず、俺は女から逃げ切れたことに安堵した。
だが玄関に近付くと、ドス黒い煙が空に向かってのぼっている事に気が付いた。そこには、紅く明滅する大量の煙草を頬張り、ドアの前に立っている女の姿があった。
髪を掻き上げ振り向いた顔は、俺が捨てた女の顔をしていた。
にっこりと微笑むと、女は口一杯の煙草を家の前に吐き出した──。
ホラー
公開:19/03/17 11:44
更新:19/03/19 19:04

渋谷獏( 東京 )

(੭∴ω∴)੭ 渋谷獏(しぶたに・ばく)と申します。 小説・漫画・写真・画集などを制作し、Amazonで電子書籍として販売しています。ショートショートマガジン『ベリショーズ』の編集とデザイン担当。
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