花神の庭~山茶の歌垣(さざんのうたがき)上
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黄昏に喚ばれた気がして、玄関の垣を歩く。
常世(とこよ)の庭の、距離はあってない様なもの。配置も植栽も頻繁に変わるので、昔はよく迷子になった。
根国底国(ねのくにのそこのくに)に築かれた仮初めの楽園。ギリシャ神話のエリュシオン。旧約聖書のエデン。書庫に積まれた古今東西の記録と伝奇。花守り(はなもり)に必要な知識。それ以外、僕はほとんど知らない。
『イサナって、どういう字ですか?』
百合が通い初めの頃、答えられなかった。今は答えられなくもないが、彼女は来ないし、あえて伝えたくもない。
人間だった頃の姿も、名前も思い出せない。家族も居ただろうが、所在は辿れない。残っているのは炎の最期。自分が何処で生まれ幾つで死んだか、命日の七月七日が人間の歴史で何年だったかも、正確には判らない。
――さや。葉擦れが途切れた。
薄桃色の山茶花(さざんか)の蕾。文机に巻紙を拡げる尼僧。
僕を喚んだのは彼女だ。
常世(とこよ)の庭の、距離はあってない様なもの。配置も植栽も頻繁に変わるので、昔はよく迷子になった。
根国底国(ねのくにのそこのくに)に築かれた仮初めの楽園。ギリシャ神話のエリュシオン。旧約聖書のエデン。書庫に積まれた古今東西の記録と伝奇。花守り(はなもり)に必要な知識。それ以外、僕はほとんど知らない。
『イサナって、どういう字ですか?』
百合が通い初めの頃、答えられなかった。今は答えられなくもないが、彼女は来ないし、あえて伝えたくもない。
人間だった頃の姿も、名前も思い出せない。家族も居ただろうが、所在は辿れない。残っているのは炎の最期。自分が何処で生まれ幾つで死んだか、命日の七月七日が人間の歴史で何年だったかも、正確には判らない。
――さや。葉擦れが途切れた。
薄桃色の山茶花(さざんか)の蕾。文机に巻紙を拡げる尼僧。
僕を喚んだのは彼女だ。
ファンタジー
公開:19/03/14 21:00
創樹(もとき)と申します。
葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書きもどきをしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.13執筆&編集
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。
【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞 2022年6月作品集出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞
第二回ひなた短編文学賞 双葉町長賞
いつも本当にありがとうございます!
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