花神の庭~病葉(わくらば)起
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「……百合」
「イサナ……」
一瞬、跳び上がった。
悪戯を見付かった子供の速度で、じりじり窺う。日没の残照が胸までの髪を、外套を、襟巻を、スカートを、膝丈の靴を、目を鼻を唇を肩を手を脚を輪郭を、百合を形作る総てを蜃気楼の様に浮かべていた。
僕達は互いに見入った。奇妙な静寂の中、百二十日余りの別れを、昨日の様に、永遠の向こうの様に、恐ろしく緊張し、同時に弛緩しながら。
二、三歩寄れば届く場所で。垣根の内と外の境界で。
くしゃっと百合の顔が歪む。僕は三歩を一足で飛んだ。
百合が緑の壁に呑まれた。
正確には、玄関を蔓草が塞いだ。
「百合!」
伸ばした手を身体ごと投げられもんどり打つ。蔓草を引きちぎった矢の雨が――翡翠の羽根が僕の居た辺りを掃射した。
僕の前に、拳を握る気吹戸主(いぶきどぬし)の背中がある。
「退け、花神(はなかみ)」
蔓の残骸を払い、翡翠(かわせみ)の翼を生やした百合が囀った。
「イサナ……」
一瞬、跳び上がった。
悪戯を見付かった子供の速度で、じりじり窺う。日没の残照が胸までの髪を、外套を、襟巻を、スカートを、膝丈の靴を、目を鼻を唇を肩を手を脚を輪郭を、百合を形作る総てを蜃気楼の様に浮かべていた。
僕達は互いに見入った。奇妙な静寂の中、百二十日余りの別れを、昨日の様に、永遠の向こうの様に、恐ろしく緊張し、同時に弛緩しながら。
二、三歩寄れば届く場所で。垣根の内と外の境界で。
くしゃっと百合の顔が歪む。僕は三歩を一足で飛んだ。
百合が緑の壁に呑まれた。
正確には、玄関を蔓草が塞いだ。
「百合!」
伸ばした手を身体ごと投げられもんどり打つ。蔓草を引きちぎった矢の雨が――翡翠の羽根が僕の居た辺りを掃射した。
僕の前に、拳を握る気吹戸主(いぶきどぬし)の背中がある。
「退け、花神(はなかみ)」
蔓の残骸を払い、翡翠(かわせみ)の翼を生やした百合が囀った。
ファンタジー
公開:19/03/15 23:00
枯葉(落ち葉):憂鬱・
新春を待つ
※病葉:病変・虫害で変色した葉
また邂逅をわくらば(わ)とも。
創樹(もとき)と申します。
葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書きもどきをしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.13執筆&編集
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。
【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞 2022年6月作品集出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞
第二回ひなた短編文学賞 双葉町長賞
いつも本当にありがとうございます!
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