花神の庭~紅絹地衣(もみじえ)

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全部投げたくても、花神(はなかみ)は現れ、僕は花守り(はなもり)だった。
「おい、茶」
「切らしてます」
図々しい。祝詞(のりと)は根本が最上敬語だ。お腐り遊ばしても神におわします方々、この返しは不敬以外の何ものでもないが。
「酒でも許す。井戸から汲んで来い」
人の家に居座り、茶や酒をたかる奴を、神と奉(たてまつ)る必要があるか?
「気吹戸主(いぶきどぬし)。帰って下さい」
昼顔の花神、気吹戸主。顔と真名(まな)を当てられ天に昇った。昇った花神が、季節を跨がず降りて来る。本当に今年は異例尽くしだ。おまけに――
「その格好もやめて下さい」
朽葉の袷(あわせ)に蘇芳の帯。色目は季節を意識している。
ただ、顔は髭中年。どっかり胡坐で裏地の紅絹(もみ)が御開帳。精神的に厳しい絵だ。
「どの顔なら見たいのだ?」
数拍固まった僕にほくそ笑み、気吹戸主は衣を翻した。
見透かした眼は、桔梗の青に似ていた。
ファンタジー
公開:19/03/14 00:00
紅葉:美しい変化・大切な思い出

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
前職は花屋。現在は葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書き(もどき)をしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.12執筆参加
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞。2022年6月アンソロジー出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞受賞

いつも本当にありがとうございます!

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