作家デビュー

3
7

引っ越しは何年ぶりだろう? いや何十年ぶりか。荷造りを始めた時、こんなに多くの物を持っていたことに驚いた。使ってないハサミが十本出てきた時は笑った。取捨選択は思い切りした。だって2LDKから小さなワンルームへ移るんだから。行政が最近推進している独居老人用マンションだ。世間では姨捨山だ、などと批判されているが、私はそうは思わない。老人が新たな部屋を見つけることが絶望的な中、ありがたいの一言だ。無機質で牢屋みたいと称する声には耳を傾けない。
私はそこで念願だった小説を書こうと思っている。あの殺風景さは、まるでホテルに缶詰する締め切りまじかの作家のための部屋とも思える。集中力が増しそうだ。これからは毎日が締切。そう。人生の締切が迫っている。一生独身で、誰にも見送られることなく引っ越す私を、哀れだと思ってくれるな。私はとてもワクワクしている。作家としての新しい生活が始まるのだから。
SF
公開:19/03/13 22:05
更新:19/03/14 13:18

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容