花神の庭~切一葉(きりひとは)
4
5
「何故見せた」
元の庭で、井戸を覗いていると気付いた僕は、瓊瓊杵(ににぎ)の胸倉を掴んだ。
伊邪那美(いさなみ)でなく、目の前の瓊瓊杵に怒り、恨んだ。殺したい程憎かった。自分にこんな感情があると初めて知った。
「汝(なれ)に知ってほしかった」
「知ってどうなる!僕は生まれるべきじゃなかった!!」
この常世(とこよ)の庭が永続の檻でも、魂が使い捨ての動力でも許せた。時の無い身体が死んで甦る度に苦痛に喘いでも、守護する花神(はなかみ)に喰われる末路でも許せた。花守り(はなもり)の役目自体、伊邪那美を慰める余興だと言われても、多分許せた。
だが、原初の僕が地上に災いを拡げた。人間だった僕の世界を焼き、大勢殺した元凶だ。
それを知って、どうして僕は僕を赦せよう。
「人も神も、等しく弱く愚かよ。過ち苦しみ、それでも求める」
掴んだ瓊瓊杵の衣が霧滴に霞む。
僕が掴んでいるのは、黄ばんだ桐の一葉だった。
元の庭で、井戸を覗いていると気付いた僕は、瓊瓊杵(ににぎ)の胸倉を掴んだ。
伊邪那美(いさなみ)でなく、目の前の瓊瓊杵に怒り、恨んだ。殺したい程憎かった。自分にこんな感情があると初めて知った。
「汝(なれ)に知ってほしかった」
「知ってどうなる!僕は生まれるべきじゃなかった!!」
この常世(とこよ)の庭が永続の檻でも、魂が使い捨ての動力でも許せた。時の無い身体が死んで甦る度に苦痛に喘いでも、守護する花神(はなかみ)に喰われる末路でも許せた。花守り(はなもり)の役目自体、伊邪那美を慰める余興だと言われても、多分許せた。
だが、原初の僕が地上に災いを拡げた。人間だった僕の世界を焼き、大勢殺した元凶だ。
それを知って、どうして僕は僕を赦せよう。
「人も神も、等しく弱く愚かよ。過ち苦しみ、それでも求める」
掴んだ瓊瓊杵の衣が霧滴に霞む。
僕が掴んでいるのは、黄ばんだ桐の一葉だった。
ファンタジー
公開:19/03/13 22:00
更新:19/03/13 21:57
更新:19/03/13 21:57
桐(きり):高尚
※桐一葉:秋の訪れ・衰亡の兆し
創樹(もとき)と申します。
葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書きもどきをしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
https://amzn.to/32W8iRO
ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.13執筆&編集
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。
【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞 2022年6月作品集出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞
第二回ひなた短編文学賞 双葉町長賞
いつも本当にありがとうございます!
ログインするとコメントを投稿できます