6
11

灰色の空は、もう春だというのに冬に逆戻りしたみたいだった。
待つのはいつも僕だった。
「女の子を待たせるなんて最低」
「一回でも遅刻したら別れる」
付き合い始めた頃に君に言われた言葉。今になって思えば、デートすることへの照れ隠しで、仮に遅刻しても大好きなアイスクリームを奢ってあげたら「今度だけだよ」と許してくれたかもしれない。
ここに立っていると、色んな事を思い出す。君を待っている時のふわふわした気持ち。波打つ陽だまり。風の香り。君の笑顔。舞い散る雪の中で繋いだ指先の温度。そして、涙。
ふと視界に何かが通りすぎて空を見上げると、ちらちらと雪が踊っていた。
なごり雪か。
酔っ払ったような雪の動きを目で追いかけると、不意に懐かしい声がした。
「おまたせ」
弾かれたように振り向く。
君の幻が浮かんで、消えた。
咄嗟に伸ばした指先にふわりと雪が落ちる。
春の雪は僕の手に微かな温もりを残して消えた。
恋愛
公開:19/03/15 00:00
更新:19/03/14 19:20
春の雪✕恋愛

のりてるぴか( ちばけん )

月の音色リスナーです。
ようやく300作に到達しました。ここまで続けられたのは、田丸先生と、大原さやかさんと、ここで出会えた皆さんのおかげです。月の文学館は通算24回採用。これからも楽しいお話を作っていきます。皆さんよろしくお願いします。

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容