花神の庭~凋落(ちょうらく)

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じき霜が降りる頃、庭の木々も色付いて鮮やかだ。
この年も終わる。雪が降れば花神(はなかみ)は眠り、僕の役目も閉じる。そう思えてならない。
花神が全て昇ったら、伊邪那美(いさなみ)は僕の魂を抜き、別の魂を黄泉から拾って、新たな花守り(はなもり)を作るだろう。
僕は庭を出られない。そんな事は最初に試した。繰り返す痛みから逃れようと、敷地を出た足が透けて消えた。僕は庭の外で身体を保てない。『眠る』時、死ぬ時、意識が離れれば、僕は実体としても存在出来ない。

『どの顔なら見たいのだ?』
見たいと見られるは別だ。
『ついぞ見ぬ、人らしい顔になった』
言い得て妙だ。僕は人らしく見えるだけの人間以前だ。


庭端で銀杏が落葉する。落ちた葉は雛鴨になり、よちよち歩いて成長し、空へ羽ばたく。金の軌跡が萱輪の円を描く。
季節は巡り、命は循環する。生きていると言いたいのか。
今の僕には、その輪が『零』に見える。
ファンタジー
公開:19/03/14 10:00
銀杏:長寿・しとやかさ・鎮魂 ※公孫樹・鴨脚樹とも。

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書きもどきをしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.13執筆&編集
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞 2022年6月作品集出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞
第二回ひなた短編文学賞 双葉町長賞

いつも本当にありがとうございます!

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