本の中の悪い妖精

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世界中の言葉はもとより、今はまだこの世に存在していない言葉すらも掲載されている本がここにある。

この本は、本自身に認められた、ごく一部の人間のみが読む事を許されているものである。彼らは、本に書かれている言葉からいくつかを選び、それを世界に投げる。そうすると、世界はその言葉が表すような状態になる。
そう、これは、世界を創る言葉の本である。

さて、こんなに大事な本だけど、実は、この本の中にはスリを働く悪い妖精が住んでいて、欲しい言葉がある時に、本に気付かれないように、中から言葉をこっそりと盗んでいる。

盗まれた言葉は本から消えて、この先、その言葉が表現する世界は訪れなくなる。

悪い妖精の欲しがる言葉は、当然醜いものばかり。それだから、妖精がスリを働く度に、本から醜い言葉は消えて、美しい言葉だけが残っていく。
ファンタジー
公開:19/03/14 02:32

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