奇譚【首】

男が帰宅すると生首がぴょんぴょん跳ねとった。

「またおまえか、ほか行ってくれ」

「ここが居心地ええんや」

「わしは慣れとるけど、ほかのもんが見たら肝潰すやろ」

生首はぴょんぴょん逃げ回る。

「待たんか！」

生首はどこかへ消えた。

「首のくせに逃げ足が速いな。まあええわ、見つけたら捕まえて寺にでも持っていこ」

それ以来、生首の姿を見ることはなかった。

ある日、帰宅すると見知らぬ男が泡吹いて倒れとった。

「なんや！泥棒かこいつ？」

ふと居間の隅を見ると金庫の扉が開いている。中の金品は大丈夫そうやった。

「わしの手柄や」

傍であの生首がぴょんぴょん跳ねとる。

「なるほど、金庫の中におったんか」

「せや、その男が扉を開けたら泡吹いて倒れよったんや」

「頭ええな」

「頭しか使うとこおまへんやろ」

男は生首を置いてやることにした。
クビにすることはなかったそうな。