花神の庭~彼岸の端(ひがんのはな)下
6
3
「赦せ、伊邪那美(いさなみ)。ここへ来るまで、愚かにも気付けなんだ。汝(なれ)は死に塗れ過ぎている。地上へ戻せば、世は穢れに満ち、朽ち果てよう。汝と育んだ国が……吾子(あこ)らが絶えてしまう」
僕の声をした、伊弉諾(いさなき)の弁明を聞きながら、僕は不吉に慄いていた。嫌な――途轍もなく嫌な予感が背中を這う。
「愛しい夫よ。なれば吾はここで、汝の民を呪い殺す。吾と汝を隔つモノなど、残らず滅べばよい」
「愛しい妻よ。吾は汝の殺すより、多くの民を生む。汝の形見を、永久に護り栄えさせる。それがせめてもの償いぞ」
食い違いゆく夫婦を、見ているしか出来ない。過去を渡る僕は、彼らに干渉出来ないのだろう。惨い。痛ましい。――恐ろしい。
黒い影が、岩壁の隙間を抜けていく。岩の向こうから照らされた、遠ざかる伊弉諾の影だった。
ダン!伊邪那美の手が影の手を掴んで引きちぎった。重なる手が彼岸花の影を岩に刻んだ。
僕の声をした、伊弉諾(いさなき)の弁明を聞きながら、僕は不吉に慄いていた。嫌な――途轍もなく嫌な予感が背中を這う。
「愛しい夫よ。なれば吾はここで、汝の民を呪い殺す。吾と汝を隔つモノなど、残らず滅べばよい」
「愛しい妻よ。吾は汝の殺すより、多くの民を生む。汝の形見を、永久に護り栄えさせる。それがせめてもの償いぞ」
食い違いゆく夫婦を、見ているしか出来ない。過去を渡る僕は、彼らに干渉出来ないのだろう。惨い。痛ましい。――恐ろしい。
黒い影が、岩壁の隙間を抜けていく。岩の向こうから照らされた、遠ざかる伊弉諾の影だった。
ダン!伊邪那美の手が影の手を掴んで引きちぎった。重なる手が彼岸花の影を岩に刻んだ。
ファンタジー
公開:19/03/12 13:00
更新:19/03/12 18:26
更新:19/03/12 18:26
彼岸花:諦め・独立
情熱(赤)
想うはあなた一人(白)
創樹(もとき)と申します。
葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書きもどきをしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
https://amzn.to/32W8iRO
ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.13執筆&編集
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。
【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞 2022年6月作品集出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞
第二回ひなた短編文学賞 双葉町長賞
いつも本当にありがとうございます!
ログインするとコメントを投稿できます