花神の庭~彼岸の端(ひがんのはな)上

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裸木の桜を、井戸端に見上げる角髪(みづら)。
桜の花神(はなかみ)?いやそれはない。庭の桜は咲かず、葉も茂らない。根方の井戸から酒水は取れるが、この桜に花神などいないはず。もしやと思い口ずさむ。
「あがすめみまのみことは」
「神を滑り落ちた人に、謙る事はない」
振り返る面差しは皺に覆われ、髪も髭も所々白い。
「天孫、瓊瓊杵尊(ににぎのみこと)」
皇統の祖にして現人神(あらひとがみ)。国の礎を築いた男。
「仰々しい。瓊瓊杵(ににぎ)で良い」
「貴方は花神ですか?それとも伊邪那美(いさなみ)と同類ですか」
口調は明らかに詰問だった。一度退いた彼女の報復。瓊瓊杵が先触れ、または刺客でない保証はない。
軽く目を眇めた瓊瓊杵は、何処か嬉しそうに苦笑した。
「ついぞ見ぬ、人らしい顔になった」
「……貴方は何を知っている」
瓊瓊杵が指で井戸を示す。つい覗き込んだ僕は、背を押され、真っ逆様に井戸へ落ちた。
ファンタジー
公開:19/03/12 13:00
『あがすめままのみこと』は、 我が皇御孫命 天孫降臨と瓊瓊杵尊 ※漢字は『日本書紀』版を採用

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
前職は花屋。現在は葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書き(もどき)をしております。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.12執筆参加
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞。2022年6月アンソロジー出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞受賞

いつも本当にありがとうございます!

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