掌でシャッする男

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 ブラシやタワシを掌でシャッとするのが好きだった私は、中学の野球部に入った自分の三分刈りをシャッしたときの感覚に酔った。だが、自分で自分のものをしごく行為に虚しさを感じて退部。その後は友人の頭を冗談まじりにシャッする機会を虎視眈々と狙う日々を過ごした。

 社会人になると、周囲に三分刈りは激減し、悶々とする日々。コイン洗車を眺め、これが全部中学生の三分刈りならと妄想する自分に愕然とした私は、一念発起した。柔道だ。
 夜の部活が終わる頃、短パンとタンクトップに覆面をつけ、バスタオルを隠して通学路をうろつく。刈って三日以内の三分刈りの背後にバスタオルを回しながら近寄って、端を頭に引っ掛ける。すると中学生はあっけなく転倒する。
 袈裟固めを決め、脇に触れる三分刈りのジョレる感じを楽しみつつ、心ゆくまで頭をシャッする。

 旅から旅の生活だが、「生きる」というのは、そういうことなのだと思っている。
その他
公開:19/03/12 12:46
更新:19/05/28 11:44
シリーズ「の男」

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

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