定食 おふくろ

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学生街にある私の定食屋は、おふくろの味がする、と評判だった。

なぜか私には感じられるのだ。顔を見たとたんに、その子の思い出の味が。だから感じたままに調味さえすれば、学生たちは皆、まるで田舎に帰ったかのような安堵の表情を浮かべた。

でも、先ほど店に来た彼女からは、まったく味が感じられなかった。新入生だろうか、見ない顔だ。味の代わりに、ふと頭に浮かんだのは500円玉だった。

私の両親は共働きで、夕飯代はいつも、居間のテーブルに置かれていた。兄弟のいなかった私は、ひとり夜の町へ出かけたはず。味はおろか、何を食べたかも思い出せないのに、コインの冷たさだけは今も覚えている。

「あなた、これから毎日来ない?どれも500円でいいから」

食べたかった味があるのよね。知ってるわよ。私もそうだったから。

彼女はゆっくり頷いた。その瞬間、憧れで終わるはずだった味が、舌の上でポワンと弾けた。
ファンタジー
公開:19/03/12 20:28
更新:19/03/18 17:24

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