花神の庭~菊花のちぎり
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七夕の夜、僕は自分の正体を知った。
伊弉諾(いさなき)。国生みの男神。妻の伊邪那美(いさなみ)を死者の世界に置き去りにした男。僕の身体は、闇に鎖された伊邪那美が、彼の影から創った人形。
道理で時が動かないわけだ。変若(おち)――神の不死が源だとは。
僕の魂は黄泉から拾った亡霊で、身体を動かす燃料に過ぎない。僕は僕の想定以上に、人間から程遠い存在だった。
『……この借りは返そうぞ、伊弉諾』
いっそ今、僕の魂を抜き、花守り(はなもり)を挿げ替えろ。大方何度もそうしただろう。季節を回す役目も、膨大な記録も、全部芝居だと言われても驚かない。
こそ。掌に肢が登る。不思議そうに僕を見る、緑の三角。
「ああ、お前か」
文目(あやめ)と同化した蟷螂(かまきり)。僕に懐き、天に昇らず庭に居付いた。
「何持ってる?」
口に咥えた野菊。そう言えば、今日は重陽の節句。
邪気払いの菊の香りに、少し憂鬱が晴れた。
伊弉諾(いさなき)。国生みの男神。妻の伊邪那美(いさなみ)を死者の世界に置き去りにした男。僕の身体は、闇に鎖された伊邪那美が、彼の影から創った人形。
道理で時が動かないわけだ。変若(おち)――神の不死が源だとは。
僕の魂は黄泉から拾った亡霊で、身体を動かす燃料に過ぎない。僕は僕の想定以上に、人間から程遠い存在だった。
『……この借りは返そうぞ、伊弉諾』
いっそ今、僕の魂を抜き、花守り(はなもり)を挿げ替えろ。大方何度もそうしただろう。季節を回す役目も、膨大な記録も、全部芝居だと言われても驚かない。
こそ。掌に肢が登る。不思議そうに僕を見る、緑の三角。
「ああ、お前か」
文目(あやめ)と同化した蟷螂(かまきり)。僕に懐き、天に昇らず庭に居付いた。
「何持ってる?」
口に咥えた野菊。そう言えば、今日は重陽の節句。
邪気払いの菊の香りに、少し憂鬱が晴れた。
ファンタジー
公開:19/03/11 01:00
更新:19/03/12 18:20
更新:19/03/12 18:20
野菊:清爽(せいそう)
9月9日・重陽の節句
題は雨月物語『菊花の契り』より
創樹(もとき)と申します。
葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書きもどきをしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.13執筆&編集
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。
【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞 2022年6月作品集出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞
第二回ひなた短編文学賞 双葉町長賞
いつも本当にありがとうございます!
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