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ああ、また匂ってきたな。
近隣の住人が避けて通るのを見て、俺はそう確信した。
あれからもう二年は経つからなァ。
俺は家に戻ると、用意しておいた粗塩や重しを車に積み、深夜になるのを待ってあの沼に向かった。
山道をどんどんと進み脇道へ入っていくと、あの懐かしい小さな沼が現れた。
俺は大量の粗塩を投入し、服を全て脱ぎ去りゆっくりと沼に入った。腰を「く」の字に曲げ、頭の先まですっかりと水の中に沈めた。
あとはひたすら背中の側に意識を集中させ、徐々に自分の体をズラしていけばよいのだ。

俺の体は十年ほど前から体質が変わり、ある時間が過ぎると、烏賊の腐ったような猛烈な悪臭を放つようになった。その度にこの脱体という秘法を駆使し、古い体を丸ごと捨ててきたのだ。
四日間かけてやっと脱体し、ばたばたと暴れる古いほうの俺を沼に沈めた。

新たな肉体を得た俺は、またいつも通りの平凡な暮らしへと帰っていくのだ──。
ホラー
公開:19/03/10 20:09
更新:19/03/20 23:46

渋谷獏( 東京 )

(੭∴ω∴)੭ 渋谷獏(しぶたに・ばく)と申します。 小説・漫画・写真・画集などを制作し、Amazonで電子書籍として販売しています。ショートショートマガジン『ベリショーズ』の編集とデザイン担当。
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