花神の庭~翠帳合歓(すいちょうごうかん)-転
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「いさなき?」
「まだ思い出さぬか」
肩に回った腕が胸を締める。小首を傾げる顔は、翡翠(かわせみ)から女になっていた。流れる髪は地面に達し、翠緑と薄紫の衣がたなびく。
「汝(なれ)は吾(あ)が創った。名を授けたも力をやったも吾ぞ。真名(まな)は憚られる故、『イサナ』と縮めたまで。汝の名は、正しくは伊弉諾(いさなき)」
イサナキ――音が鎖の様に意識を縛る。
「違う。僕の名前は、僕は……!」
「忘れるなぞ赦さぬ。この身は汝の影。吾を捨てて逃げた汝の影を、吾が闇底で人形に紡いだのじゃ!妻の吾を岩戸で封じた汝を、それでも偲んで!!」
憎悪と情念に燃える瞳は、ひたと僕を捉えていた。爆ぜる火の粉が照らす面は、狂おしいまでに美しかったが、爛れた肉と毒の臭気が染み付いていた。
「……伊邪那美(いさなみ)」
「憎い。憎くて愛しい伊弉諾(いさなき)」
掴まれた頭が引き下ろされる。饐(す)えた息が唇を撫でた。
「まだ思い出さぬか」
肩に回った腕が胸を締める。小首を傾げる顔は、翡翠(かわせみ)から女になっていた。流れる髪は地面に達し、翠緑と薄紫の衣がたなびく。
「汝(なれ)は吾(あ)が創った。名を授けたも力をやったも吾ぞ。真名(まな)は憚られる故、『イサナ』と縮めたまで。汝の名は、正しくは伊弉諾(いさなき)」
イサナキ――音が鎖の様に意識を縛る。
「違う。僕の名前は、僕は……!」
「忘れるなぞ赦さぬ。この身は汝の影。吾を捨てて逃げた汝の影を、吾が闇底で人形に紡いだのじゃ!妻の吾を岩戸で封じた汝を、それでも偲んで!!」
憎悪と情念に燃える瞳は、ひたと僕を捉えていた。爆ぜる火の粉が照らす面は、狂おしいまでに美しかったが、爛れた肉と毒の臭気が染み付いていた。
「……伊邪那美(いさなみ)」
「憎い。憎くて愛しい伊弉諾(いさなき)」
掴まれた頭が引き下ろされる。饐(す)えた息が唇を撫でた。
ファンタジー
公開:19/03/10 21:00
更新:19/03/12 18:14
更新:19/03/12 18:14
※イサナキ・イサナミの読みは
ホツマツタエ(古代詩)より
国生み神話と千引きの岩
創樹(もとき)と申します。
葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書きもどきをしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.13執筆&編集
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。
【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞 2022年6月作品集出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞
第二回ひなた短編文学賞 双葉町長賞
いつも本当にありがとうございます!
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