花神の庭~女郎上臈(おみなじょうろう)
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『……いさな?』
声がする。伊邪那美(いさなみ)でなく百合の声。小さな百合が僕を呼ぶ。触れた手が光を撒き、命の胎動を感じる。
『イサナ、さん?』
これは十八。百合が百合として庭に来た『再会』の日。僕は気付き、彼女は忘れていた。庭は、桜以外の春の花で溢れていた。
出会ってから――共に過ごして十年。最初の最初も含めれば三十年。魂にも限りはある。彼女は老い、僕もいつか消える。ずっと一緒にいられないと、皮肉な事に、傍にいて気付いた。きっとどちらも気付いた。
『今度お見合いする』
『良かったな。お幸せに』
あれから二か月半。百合は結婚を決めたかも知れない。顔も出さないくらいだ。とうに僕を忘れ、今頃他の男の腕に――
『イサナ』
もう呼ぶな。出て来るな。
「イサナ」
――パン!
僕の腕から幻影の百合が消え、襟に女郎花(おみなえし)の粉が散る。
八つ当たりに祓った後悔と、喉に甘い酒の味が込み上げた。
声がする。伊邪那美(いさなみ)でなく百合の声。小さな百合が僕を呼ぶ。触れた手が光を撒き、命の胎動を感じる。
『イサナ、さん?』
これは十八。百合が百合として庭に来た『再会』の日。僕は気付き、彼女は忘れていた。庭は、桜以外の春の花で溢れていた。
出会ってから――共に過ごして十年。最初の最初も含めれば三十年。魂にも限りはある。彼女は老い、僕もいつか消える。ずっと一緒にいられないと、皮肉な事に、傍にいて気付いた。きっとどちらも気付いた。
『今度お見合いする』
『良かったな。お幸せに』
あれから二か月半。百合は結婚を決めたかも知れない。顔も出さないくらいだ。とうに僕を忘れ、今頃他の男の腕に――
『イサナ』
もう呼ぶな。出て来るな。
「イサナ」
――パン!
僕の腕から幻影の百合が消え、襟に女郎花(おみなえし)の粉が散る。
八つ当たりに祓った後悔と、喉に甘い酒の味が込み上げた。
ファンタジー
公開:19/03/11 21:00
更新:20/01/12 08:36
更新:20/01/12 08:36
女郎花:美人・親切・はかない恋
イメージ:夢魔(サキュバス)
創樹(もとき)と申します。
葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書きもどきをしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.13執筆&編集
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。
【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞 2022年6月作品集出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞
第二回ひなた短編文学賞 双葉町長賞
いつも本当にありがとうございます!
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