旅慣れた鞄

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 私の楽しみは、SNSなどで『旅慣れた鞄』を見かけることだ。
 
 昔、海外旅行へ行くために熱海駅から乗った新幹線のデッキに、ハードタイプの黒いキャリーケースが置いてあった。
 表面はステッカーだらけで傷だらけ。
 僕はその鞄を放っておけず、そのまま旅行に持っていった。フランス滞在中もホテルに置きっぱなしにできず、ガラガラと引きずって歩き、ステッカーをベタベタ貼った。
 鞄の中には、レシートやパンフレットなどがたくさん入っていたので、僕も酒場のレシートや、カードなどを入れた。
 旅の途中でその鞄はどこかに行ってしまったけど、僕のものではないので、気にもしなかった。

 先日『梅祭り』のニュースを見ていたら、カナダ人があの鞄を、苦労して引きずっている姿が映った。ステッカーも傷も増えていた。
「今、日本か」
 以来、私はSNSなどでその鞄を目にする度に、『旅慣れた鞄』の旅程に思いを馳せるのだ。
ファンタジー
公開:19/03/09 14:29
更新:19/03/09 18:13

新出既出

星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。

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