花神の庭～馬喰百合（ばくろうゆり）上

僕は花神（はなかみ）を殺した。
祝詞（のりと）を捻じ曲げ、力としてぶつけた。花守り（はなもり）の禁忌を犯した。

『下津磐根宮柱太敷立！！』
ユニコーンの折れた角を、白銀の馬体が真っ黒に染まり動かなくなるのを、鉄砲百合の蕾が腐り枯れて地面に沈むのを、呆然と見送った。
突き立った柱の陰にへたり込む岩永百合が、うな垂れて玄関を出るのを見送った。
――先月の端午の節句の話だ。

目の前で、黒百合が蕾をもたげる。鉄砲百合の後に生えた花は、蕾も葉も茎もどす黒く、花弁の切れ目に牙を覗かせ僕を狙う。後ろには人間の百合が固唾を飲む。
いい加減思い知るべきだ。百合と僕は別世界の存在。花守りは庭に繋がれた花神のしもべ。そして万一の際、花神に捧げる餌。
身体の前の持ち主だった先代も、遺書によれば、花神に魂を喰われて消えた。

ばつり。黒い花弁が開き、僕を包む。
息を竦める百合の声を最後に、僕の意識は遮断された。