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いつもの散歩道にまだ通ったことのない路地を発見した。
元来、好奇心旺盛で若い時は日本中を旅して回った。妻と知り合ったのも北海道のユースホステルだった。偶然にも地元が同じで連絡先を交換した私たちは、その後交際し結婚した。旅好きの私たちはよく一緒に旅行に出かけた。妻は全くの方向音痴で、いつも私は妻専属のガイドだった。
枯れたはずの好奇心が湧いてきて私はその路地に足を踏み入れた。
しばらく行くと桜並木が現れた。昔、妻にプロポーズした岩手北上の桜を思い出した。
ふと気がつくと自分の来た道がわからなくなっていた。
「あなた」
振り向くと、母がいた。
「一緒に帰ろ」
母が言った。
「お母さん、僕、道がわからんなった」と言うと、「ほうなん。毎日が新しい旅みたいで羨ましいわい」と、何故か母は泣いたように笑った。
桜がひとひら、母の濡れた頬に張り付いた。同じような光景を私は以前何処かで見たような気がした。
その他
公開:19/03/08 21:00
更新:19/03/10 18:19

杉野圭志

元・松山帖句です。

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