花神の庭~袋小路(ふくろこうじ)

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『今度お見合いする』
『良かったな。お幸せに』
酷い言い草とは思わない。ここへ来るな。今まで何百回言った。百合はごく普通の男と結婚し、子供を持ち、幸せに老い生涯を閉じる――それが互いの為。
『百合の為』と断じない辺り、僕は案外正直だ。

最初の遭遇、百合は五つか六つだった。
関係の端緒、百合は社会人の十八。今年で二十八になる。
僕はその間一日たりと動かない。花守り(はなもり)の身体は時が停まっている。
注釈すると、僕の魂だって時が停まっている。
今日は僕の命日。人間の僕は、百合が知るずっと昔に死んでいる。

ふわふわ揺れる蛍灯の向こう、火の粉を撒きながら焼けていく街。黒く赤い空を巨大な蜻蛉が舞い、その光景を焼き付けながら僕も火になった、いつかの七月七日が途切れ。

僕はこの身体で――元の僕と、多分似ても似つかない姿で、突然放り出された。
蛍がぽたぽた地面に落ち、落ちた先に蛍袋の路を描いた。
ファンタジー
公開:19/03/10 01:00
更新:19/03/10 07:51
蛍袋(ほたるぶくろ): 忠実・正義 ※第二次世界大戦・空襲

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
前職は花屋。現在は葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書き(もどき)をしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.12執筆参加
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞。2022年6月アンソロジー出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞受賞

いつも本当にありがとうございます!

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