右手の行方

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満員電車に揺られる僕は今すぐ実家に帰りたい。
母さん特製ベチャベチャ炒飯、実家で飼ってる猫のドリアンの肉球、畳まれた洗濯物、おかえりの声‥一人暮らしを始めて二ヶ月、全てが愛おしい。あぁ、ドリアン撫でたい。
あれ?
仕事中、気付くと右手がいなくなっていた。
課長に「すみません、右手探してきます」と伝え久々に実家に帰る。
僕の部屋の布団の中でドリアンはゴロゴロと喉を鳴らしながら右手と眠っていた。僕もすらりと布団に入りドリアンと眠る。夕方パートから帰宅した母は僕の顔を見て喜んだ。右手の件は心配するので伝えなかったが。
それから時々右手がいなくなり、実家に向かうと右手はドリアンと眠っている日々が続いた。
課長に理不尽な説教をされ、終電で帰宅した夜。
違和感があるが、右手はある。ベッドの上に控えめに猫の前足が乗っている。ドリアン、来てくれたんだな。
ほんの少し、新生活が楽しくなりそうな予感がした。
その他
公開:19/03/09 21:46
更新:19/03/13 19:40

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