くみあげどうふ

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あ!
便器の中に夢を落とした。
ここは駅前にあるデパートの7階。私はもよおすと催事場のフロアに行く。誰にでもひとつはあるだろう、その街で一番おちつく個室。自分がありのままでいられる場所。
それなのに。どうしよう。
汚れた水にプカプカと浮かぶ夢。
手を汚さず、豆腐のように柔らかい夢をそのまま壊さずに汲みあげるなんてできるだろうか。
助けを呼ぶわけにもいかず、私は呆然としていた。
その時だ。ものすごい吸い込み音とともに便器の中を水が流れ出したのは。
自動排水か!
私はたまらずに駆け出した。
夢はまだこのビルの中にある。
私はコンシェルジュにかけあって地下にある管理室へ向かった。
「夢を!夢を助けて!」
守衛は険しい顔だ。シルバー人材センターから来たという。
事は一刻を争う。
下水管のバルブを閉めながら守衛は聞いた。
「どんな夢だい?」
「わだばゴッホになる」
守衛は静かに、バルブを開いた。
公開:19/03/07 10:10

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