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新天地へと来てしまったのだろうか。
彼がそう思ったのは、目の前にそびえる大木に、5つの花弁をつけた薄桃色の花が咲いていたからだった。
こんなの、初めてだ。
眩しい白の地面は例年より少し緩く、既に右の前脚の跡が丸くくぼんでいた。
だがその他は変わったところはなく、朝から雪かきを始める老人も、家の屋根に積もっては突然ドスンと落下する雪も、例年通りにそこにあった。家は、彼から見れば、どっさり蓄えを溜め込んで人間と共生さえする、地上の眠らない大きな生き物であった。それが相変わらず、雪の中でびくともせずに過ごしていたようで、彼は安心して雪から這い出た。
「あっ、桜だー!」
幼い少女が走り寄ってきたので、彼は急いでまた雪の中に身を隠した。窓が開いて、母親が彼女を注意する。
「走っちゃだめよー!」
その時、部屋のテレビの音声が漏れてきた。
「地球温暖化の影響で、今年の桜前線は異常な速さで移動しており…」
その他
公開:19/03/08 15:11
更新:19/03/08 15:22
新生活

北瓜 彪

ショートショート講座(2019年7〜9月期)にも参加
しました。
皆様宜しくお願いしますm(_ _)m

※アルファポリス
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/664452356
でも活動しています。SS講座で提出した作品「ファンフラワーに関する見聞」「大自然」もそちらで公開しております。
 

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