花神の庭~文目蟷螂(あやめとうろう)中

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「神籬(ひもろぎ)?」
「そう。憑坐(よりまし)の方が解り易いか?神域の山や森、宮のうち、媒体になる存在」
「ご神体みたいな?」
「神を直に降ろす形代だから、ほとんど神そのもの」
縁側で百合の介助を受けながら、桶に入れた文目(あやめ)を見ている。それはもう花でなく、一匹の蟷螂(かまきり)だ。緑の鎌を振り上げ、血走った眼で威嚇する。
「この庭にあるのも神籬だ。花神(はなかみ)を宿す木や草花。僕はそれを管理し守護し、あるべき時に天へ循環させ、季節を回す」
「つまり蟷螂は、文目の花神?」
「神になった。多分、死んだ時に。自己の念が凝ったり、他者の念が集ったり、命が尽きても、魂だけ残る事がある。怨霊や祟り、鬼。大概、良い方には向かない」
人に殺された蟷螂――その一部始終を、僕は追体験した。
死骸は池の泥に沈み、文目に吸収されただろう。
「これは僕が預かる」
不安げな顔に微笑む。完全に痩せ我慢だが。
ファンタジー
公開:19/03/07 00:00

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
前職は花屋。現在は葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書き(もどき)をしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.12執筆参加
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞。2022年6月アンソロジー出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞受賞

いつも本当にありがとうございます!

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