花神の庭~文目蟷螂(あやめとうろう)上

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「イサナ、いる?」
柄杓を置き、玄関の垣へ頭をやる。庭で僕に声を掛ける『人間』は、目下一人きり。
「……百合。また来たのか」
「固い事言わない。ねぇこれ見て」
岩永百合。植物園に勤める古い知人。専門家の僕を当てにして、時々妙なものを持ち込む。
「文目(あやめ)なんだけど、色が変なの。池の傍に一株だけ咲いてて」
三角に開いた花は緑で、中心に赤茶の網目。ああ居るな。軽く触れた途端
――ざばん。景色が水に化けた。上から潰され、泥にめり込む。
『イサナ?……!?』
もがいても暴れても沈む。窒息する。みし、みし――背骨が軋む。折れる。
ごぶ。。。生臭く錆びた泡が漏れる。
最期に見た僕の腕は、緑の鎌だった。

「イサナ!」
景色が歪み、咳き込む。恐くて苦しくて、背中をさする手が温かかった。
「くぬちに、なりいでむ。あまのますひとら、…あやまち、おかし……くさぐさ、つみ……」
それ以上声にならなかった。
ファンタジー
公開:19/03/07 00:00
「あやめもよう」リンク話 蟷螂(とうろう・カマキリ)視点

創樹( 富山 )

創樹(もとき)と申します。
葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書きもどきをしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.13執筆&編集
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。

【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞 2022年6月作品集出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞
第二回ひなた短編文学賞 双葉町長賞

いつも本当にありがとうございます!

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